やっぱりおまえに頼るしかなさそうだ。

これまで盗賊団のためにたくさんの仕事を見事にやってのけたんだから、今回もおまえを信じてみることにしよう。

実は今回頼むことは、盗賊団のためじゃなく俺自身の個人的なことだ。

ランがまた消えたのさ。
水晶玉を盗もうとしてデブリに変えられてからそう経っちゃいない。

それがまた騒ぎを起こすとはな……一体いつになったらしっかりしてくれるんだ！

村の外に出られないようキッチリ手配しておいたのに、誰をどうそそのかしたのか、まんまと抜け出しちまった。

血のつながった家族はあいつ1人だけなんだ。どうかあいつを探してほしい。
ノベックに聞いてみてくれ！

ランを監視する任務を任せておいたんだ。

あいつがまともに任務を遂行してさえいれば、こんなことにはならなかったんだ。
親分に言われて来たのか？ラン様がいなくなった件だろ。

俺が監視を任されてたのにいなくなっちまったんだから問い詰められるのは当然だけど、正直、俺もどうかと思うのさ。

俺はラン様の乳母か何かか？俺だってやることがあるのに、1日中ラン様の監視ばかりしていられるわけないじゃないか。
正直言って俺にはよくわからないなぁ。

でも、クロゲなら知ってるかもしれない。ここ数日、ラン様とコソコソ話し合っていたのを見たからね。

ビビって知らないとシラを切るだろうから、最初から全部知ってるってどやしつけてやれば吐くと思うぜ。

クロゲに会ってみてくれ！
ラン様がどこへ行ったかなんて、どうして俺に聞くんだ。

ラン様を監視していたノベックも知らないようなことを、俺がどうやって知るんだよ。

急いでいる気持ちはわかるが、おかど違いってもんだ。
ちくしょうっ。俺もハッキリとはわからないんだよ。

さっき、ノストーラを引っ立ててどっかに出かけたとこは見たよ。

ぶっちゃけ、これは言いにくいことなんだが……何日か前、ライカンの紫色のサファイアについて聞いてくるから、答えてやったことはあるんだ。

でも、それは絶対に俺がたきつけて紫色のサファイアを探しに行ったとかいう意味じゃないぜ！

俺はただ、自分が収集した情報が合っているかどうか確認したいなと思っただけなんだよ。
もしもライカンの紫色のサファイアを盗みに行ったんなら、多分ドゥバロ渓谷に行っているな。

ノストーラがあの辺の地理に詳しいから、無理やり案内させているんだろうし。

このことを知らせようかどうしようか迷っていたんだが、親分に怒られると思って……。

どうか親分には俺の話をしないでくれよ、ほんとに頼むぜ！
大変だ！遅いじゃないか！

普段ならラン様が少しでも見えなくなると村中を捜しまわっていたのに、今日にかぎって……！

ラン様がライカンにとっ捕まってしまったんだよ！
ラン様がドゥバロ渓谷に案内してほしいとおっしゃるから、できないと言ったんだ。村の外に出たら親分に怒られるから、って引き止めたのさ。

でも、あまりに頑として聞かないから、どうしようもなく引きずられてきたんだ。

なのに、ここに着いてみたら、ライカンの紫色のサファイアを盗みにきたとか言って協力を求められちまったじゃないか。

そんなことしたら2人とも死ぬからって説得してたら、急にライカンの連中が現れたんだよ！
俺は木の後ろに隠れ、ラン様は隣にあったオデラーの荷車の中に隠れたんだ。

そしたら、こともあろうにその荷車をライカンのやつらが洞窟に引いて入っていっちまったんだよ！

ちょうど最近、おれたち盗賊団でライカンをボコボコにしてやったから、やつら相当いきり立ってるところだろうに……ラン様がいることがバレたら、まず無事じゃいられないだろう。

ラン様を救出できるのは君だけだよ。

何か起こる前に、急いで行ってくれ！
ビックリした！あっ、あんたはこの前、くされ占いババァの家で会ったオヤジの部下！

静かに！あんたのせいでライカンにバレるところだったじゃない。

今は説教なんかしてる場合じゃないわ！偶然、ここに隠れていてすごい情報がわかったんだから。

それも全部、このラン様がライカン語を知っているおかげよ。

ライカンのやつらが今ここで何をしてるのかわかる？龍族を呼ぶ儀式を準備しているんだって！

あの内側で赤い光が漂っているのが見えるでしょ？あそこでアビスとつながってる次元の扉を開けようとしてるところなの。
はぁ？今どんだけ重要な瞬間なのかわかんないの？

あたしが凄い手柄を立てる絶好のチャンスなんだから。こんなチャンスはそうそう来るもんじゃないの。

あたしの邪魔をしたってムダだからね。この件を解決して正々堂々とパパに認めてもらうんだから！

あんた、もしかしてあたしに手柄を立てるチャンスを取られるとでも思ってるわけ？
フーン、仕事はあんたが片付けて手柄はあたしに？悪い話じゃないわね。

いいわ、そうしよう！あたしが盗み聞きしたことを教えてあげるから、あたしの言うとおりにしてよ。

峡谷の一番奥に赤い光が漂ってるのが次元の扉なんだけど、ライカンのやつらがそれを動力装置で開けようとしてるの。動力装置は全部で3つ。それを全部壊せば、アビスにつながる次元の扉はあいつらでも開くことができなくなる。

あの次元の扉の前にある紫の動力装置、紫色のサファイアを利用して作ったらしいわ。ホントはあれを盗みたくて来たのに手に入れることもできず、壊さないといけないなんて……本当についてないんだから。

とにかく、何をしたらいいかは分かった？あたしが今言ったとおり、動力装置を壊してくるのよ。

そうだ、仮にやつらに捕まってもあたしがここにいることは言っちゃダメだからね。あたしだけでも生きて帰らなくちゃいけないんだから。
どうなった？成功した？

赤い光が消えるのが、ここでも見えたことは見えたけど……。

ライカンを退治して次元の扉を閉めた？
キャハハ！でかしたわね！あんた、見かけによらず凄いのね。

さあ、どうやったか、1つひとつ説明してよ。

なぜって、そうしなきゃパパの所に行って、あたかもあたしがやったことのように言えないじゃない。

仕事はできるけど、頭はあんまりよくないのね。
つまり、コッソリ近づいて緑の動力装置を破壊し、ライカンとひと勝負してから青の動力装置を破壊した。

で、坂道にいるライカンを全部やっつけて紫の動力装置を破壊したってことね？

よっし！パパの所に行ってそのまま話そうっと。

とりあえず私と一緒にパパのところに戻ろう。

あたしがパパと話終わった後で来て、「あたしは見つかりませんでした」って言ってよね。わかった？
ちょっと前にランが帰ってきたんだ。

自分がアビスとつながる次元の扉を閉じてきたと自慢してた。

だが、事情を詳しく聞いみると、しどろもどろなんだなこれが……どうやらまた、おまえに娘を救ってもらったらしい。

娘が無事に戻ってきたのはみんなおまえのおかげだよ。本当にありがとう。

俺はランをまともな娘に育てあげることができず、団員たちにまで迷惑をかけてしまっているな。ひとえに、この俺の不徳のいたすところだ。

本当は何があったのか、詳しく聞かせてくれ。
本当にすごい働きだったな。おまえのおかげでイスハルゲンは大きな危機を免れたぞ。

もし、次元の扉が開いていれば、娘だけでなく俺たちウルゴルン盗賊団全員がやられていたかもしれない。

最悪の場合は、魔界全体が危険に陥っただろう。

おまえのおかげでみんな、こと無きを得たな。

この感謝の気持ちをどうやったら返せるかわからない。

とりあえず、これでも受け取ってくれ。これはちょっとした感謝の気持ちだ。