ID: 748016
伝説とニンフ 第5巻
icon NPC
レベル: 1
HP: 63
攻撃半径: 0m

Dialogs:

エルテネン地域のニンフの伝説:フニスの泉

今は砂漠になってしまったエルテネンのエイロン森にまつわる物語である。

もしかするとロダスは覚えているかもしれない。ロダスが口癖のように言う、エイロン砂漠がうっそうとした森だったころの話だ。

小さなエローコや名も知れぬかわいい鳥、すばしっこい動きの獣まで、当時のエイロン森にはありとあらゆる動物がいた。

そのため、当然のごとくハンターたちの楽園でもあった。

きれいに手入れされた皮の服をかっこよく着こなした血色のよいその若者も、エイロン森によくやってくるハンターの1人だった。

彼は朝早くからエイロン森にやってきては、疲れもせずに駆け回っていた。

日が傾くころになると、森の中にある静かな澄んだ泉のそばに来て休んだ。

泉でのどを潤し、平らな場所で横になって鼻歌を歌ったり、軽くいびきをかきながらひと眠りしたものだ。

若いハンターの話の次は、かわいい女性の話をしよう。

朝早くからこの泉には、ボロボロの服を着た女性がやってきては澄んだ泉の水を汲んでいった。

肩に担いだ桶はとても重そうで、顔はどこか切なそうな表情をしていた。

物語はこの女性が水を汲んで帰る途中、木の根につまずいて転んだ日から始まった。

その日、のどが渇いて泉にやって来たハンターは、桶を担いで帰ろうとする女性と出くわした。

それはほんの一瞬だったが、彼は彼女の澄み切った眼差しとかわいらしい頬、そして悲しい口元まで、彼女のすべてにひと目ぼれした。

彼は重い桶を運ぶのを手伝いたいと思ったがあまりにもドキドキしてしまい、挨拶すらろくにできなかった。

次の日、ハンターはいつもと違い、小鳥ですらまだ眠っている早い時間から泉に来ていた。

少し待っていると、かわいい女性が桶を持って現れた。

その後は、みんなが想像するとおりである。

何度か恥ずかしがるような笑い声が聞こえた後、女性と若いハンターはすぐに仲良くなった。

女性の名前はフニス、若いハンターの名前はアイネアスだった。


それから、夜が明けると泉でフニスはアイエナスを、アイネアスはフニスを待つようになった。

もちろん、はっきりとそう約束したわけではなかった。

ある日、すすり泣くフニスを見て青年がやさしく問いかけ、聞き出した話はこうである。

彼女の両親は彼女が小さいころに亡くなり、今は叔父と叔母のもとで暮らしている。

叔父と叔母は7人もいる自分の子どもたちの面倒を見させることはもちろん、ありとあらゆる家事や畑仕事を彼女に押し付け、朝早くから夜遅くまで彼女をこき使っていた。

しかし、その日の朝、彼女が泣くしかなかった事情は別にあった。それは前の日の晩、叔父と叔母が突然一方的に、彼女を隣の村の年老いた神官に嫁がせることにしたと言ったからだった。

アイネアスは話をすべて聞いたあと、自らを責めた。なぜ今まで彼女の悲しげな口元に気付かぬふりをしてきたのかと自らを責め続けた。

そして、フニスを説得しはじめた。次の日の朝、泉で待ち合わせをして駆け落ちしようと。

しかし、こういった類の話はいつもそうであるように、フニスとアイネアスも幸せな結末を迎えることはできなかった。

次の日、暗い森に青い光が差すころまで、フニスは期待に胸をふくらませていた。

鳥が起き出し、朝のエサを求めて飛びまわるころになると一抹の不安に襲われたが、何の疑いも抱かなかった。

何かよくないことが起きたのではないかと彼女がアイネアスを心配し始めたのは、森が長い影を落とすころだった。

そして、何度昼と夜が訪れようと、ついに彼は現れなかった。

フニスの絶望はあまりにも大きく、ため息すらつくことができなかった。疲れ果ててうつむき、泉の中をのぞき込んだ。


泉は澄み切っていて自分の姿を包み隠さず映し出していた。

捨てられて悲しみにくれるボロボロの服を着た少女の姿を。

その後、しばらくしてから泉でフニスの古い靴が見つかった。理由もわからず裏切られた彼女が泉を離れられなかったのは当然だったかもしれない。

ところで、アイネアスはどうしたのだろうか?

その裏話はこうである。

前の章でアイネアスの立派な皮の服を見たみなさんは、彼がただのハンターではないことに気付いただろう。

彼の本当の正体はディーヴァだったのだ。しかも、先祖代々ディーヴァの血を受け継ぐ由緒正しき家柄の後継ぎで、彼には親が決めた結婚相手までいたのだ。

狩りに行くという息子の口元はいつからか常に笑みが浮かび、夜も寝付けずに寝返りを打っていることに気付いた彼の両親は、使いの者にアイネアスの後をつけさせた。

そして、彼が貧しい少女と楽しそうに戯れるだけでは足らず、駆け落ちの約束までしたことがわかった。

だが、それはディーヴァの厳格な家柄では許されないことだったのだ。

何も知らぬままフニスと旅立つ準備をして眠ったアイネアスは、その夜、父親に束縛魔法をかけられた。

彼が身動きの取れなくなるその魔法から解かれたのは、すでにフニスの古い靴が発見された後だったという。

彼は頭を抱えて泣き叫んだ。しかし、果たして彼はフニスほど絶望したのだろうか?

それからというもの、アイネアスが消滅したという話は聞いたことがない。もしかすると、名前だけ変えてのうのうと生きているのかもしれない。

とにかく、エイロン森の寂しげな場所にある澄んだ泉では、それからおかしな事が起こるようになった。

泉の水を飲んだハンターたちが原因不明の熱病を患って死んでいったのだ。

そして、泉には若いハンターだけを惑わすニンフが住みついているという噂が広まった。

ニンフを見たという人たちの話によると、ボロボロの服を着ているが不思議とかわいく見え、一度見ると絶対に忘れられなかったという。

人びとはそれがフニスの魂だと考えるようになった。そして、その泉を「フニスの泉」と呼んだ。

しかし、今はうっそうとした森も消え、フニスとアイネアスの悲劇にまつわるニンフ伝説も昔の話となってしまった。



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